「一度KOされた選手は、もう元には戻らない」。格闘技のファンなら何度も聞く話です。打撃で意識を刈られた経験は残り、次の試合でまた倒れる。本当でしょうか。
前回の記事では、このサイトのレートが実際の勝敗をどれだけ当てられるかを測りました。今回は逆のことをします。レートが当たらなくなる場所を探します。
使うのは、その試合の直前にサイトが持っていたレートだけです。試合ごとに両者のレートから期待勝率を計算し、グループごとに期待勝率の平均と実際の勝率を比べます。差がプラスならサイトはその選手たちを低く見積もっていた、マイナスなら高く見積もっていたことになります。
先に言っておくべきことがあります。このレートは、KOやTKOでの敗北を判定での敗北より重く扱います。倒された選手のレートは、その時点ですでに大きく下がっています。ここで測るのは「KO負けすると弱くなるか」ではなく、下げたあとの数字でもまだ足りていないか、です。
対象は、両者ともその試合までに5戦以上をレートに積み上げている試合に限りました。
36,516試合視点、1980年〜2026年
判定で負けた直後の選手について、レートはほぼ完璧です。差は0.1ポイント。ところがKOやTKOで倒された直後だけ、実際の勝率が期待を2.7ポイント下回ります。サブミッションで極められた場合はその中間です。
そして勝った側には同じことが起きていません。KO勝ちの直後は+1.1、サブミッション勝ちの直後は-0.4、判定勝ちの直後は+0.5。いずれもほぼゼロです。これは勢いの話ではありません。倒された側だけの話です。
KO・TKO負け後と判定負け後の差は2.6ポイントです。ひとつの試合が両コーナーぶんの2行として入るので、単純に数えると不確かさを小さく見積もってしまいます。試合を単位にして2,000回の再抽出を行い、保守的な側をとると、95%の範囲で0.7〜4.5ポイント。ゼロを含みません。
直前の試合からの間隔で分ける(括弧内は試合数)
12か月までは、決着の付き方で説明がつきます。KO負けの直後だけが沈み、判定負けの直後は沈みません。ところが12か月を超えると順序が入れ替わり、判定負けの直後のほうが悪くなります。この帯で効いているのはKOではなく、長く試合から離れた選手をレートが高く見すぎるという別の問題です。
したがって、この記事が言えるのは倒されたあとの1年間についてだけです。
1990年代は試合数が少なく参考値ですが、KO・TKO負け後と判定負け後の差は、4つの年代すべてで同じ向きです(順に 8.6 / 3.6 / 2.5 / 2.2ポイント)。近年のルールやレフェリングの変化だけで説明できるものではありません。
Mirko Cro Cop 対 Cheick Kongo 、2007年9月8日。4か月前に Gabriel Gonzaga にKOで敗れた直後でした。レートは 2155 対 1650、期待勝率91.1%。判定で敗れています。
Eddie Alvarez 対 Timofey Nastyukhin 、2019年3月31日。8か月前に Dustin Poirier にTKOで敗れた直後。2153 対 1642、期待勝率91.4%。TKOで敗れました。
Junior dos Santos 対 Yorgan De Castro 、2022年5月20日。17か月前に Ciryl Gane にTKOで敗れた直後。2044 対 1536、期待勝率89.4%。TKOで敗れています。
逆の例も挙げておきます。 Yushin Okami 対 Kim Jae-young 、2023年12月2日。12か月前に Aung La Nsang にTKOで敗れた直後でしたが、1750 対 880、期待勝率93.3%で、判定勝ちしています。2.7ポイントというのはこういう大きさの話であって、個々の試合を言い当てるものではありません。
原因は分けられません。レートの下げ幅が足りないのか、倒されたこと自体に残るものがあるのか。どちらでも同じ数字になります。
マッチメイクは中立ではありません。KO負けした選手に次の試合が組まれる過程には、その試合を見た人の判断が入ります。これは「KO負けした選手一般」ではなく「KO負けのあとに試合を組まれた選手」の話です。
デビュー戦は別の問題です。レートに積み上げのない選手は、期待33.5%に対して実際21.5%と、12.0ポイント外れます。これはKOとは関係のない、情報不足による外れです。
年齢、計量、負傷、練習環境のデータは持っていません。原因を選手個人に帰することはできません。
この2.7ポイントを見て、KO負けの罰をもう一段重くすることはできます。しかしやりません。残差の原因が「下げ幅の不足」なのか「ダメージそのもの」なのか分けられないうちに係数をいじると、いま当たっているところまで一緒に壊れるからです。前回の記事で見たとおり、このレートは全体としてはよく当たっています。分からないものを分からないまま置いておくほうが、取り繕うより正確です。
分かったことは、使い方のほうに置きます。倒された直後の1年間の選手については、このサイトの数字を少し割り引いて読んでください。
【訂正】2026年9月20日 — 年代別の表が、記事の他の表とは異なる母集団(すべての決着試合)で計算されていました。他の表と同じ「両者5戦以上」で刷り直しています。4つの年代すべてで差が同じ向きである、という結論は変わりません。
本稿の数値は 2026年9月23日 時点のデータに基づきます。データは毎週更新されるため、最新の集計とは末尾の桁が異なる場合があります。